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戴冠の日々
「――なるほど、確かにそうかも知れないですね」
ひとつ分かった。
僕が思うよりはるかに、男は事態を把握している。
……いや、男たちは、と言うべきか。
明確な正体こそ分からない。
けれども、あまり穏当でない目的との察しはつく。
「手前えの呼ばれた理由が、まやかしかマジ物かまでは知らねえ。ただな、あの一家を無闇に安定させられちゃ困るのよ」
安定の反対はなんだろう。
諍い、揉め事、あるいは革命。
――革命? まさか。
「ただでさえ、数年前の戴冠式のゴタゴタが尾を引いてやがる。あいつらは俺たち民衆のことなんざどうでもいんだ、てな。あとはひとつふたつ、グラつかせるだけって寸法よ」
「……いいんですか、そんな事まで」
「構いやしねえよ。どうせこの手の噂、掃いて捨てるほどあるだろ。お前の持って来たそれだけ、特別に構うような理由はねえさ」
男の言い分は、確かにその通りだろう。
今の皇后は、ただでさえ心を開きかねている。
噂話を軽くあしらう、そんな余裕はないはずだ。
今のままならば、いざというとき賢明に動けなくなる可能性は高い。