72/350
生まれつき
「なんだお前、俺が怖えのか、あ?」
残念なことに、その指摘は正しかった。
僕の小さな震えは、決して寒さだけではない。
己の力のなさが、無性に悔しい。
両の手に力を込める。
左手には、うまく力が入らない。
この先ずっと、うまくは動かないだろう。
「……その腕はどうした」
言って、僕の左腕に視線が注がれる。
流行り病の爪痕が残る左腕に。
「――生まれつきですよ。それがどうかしましたか」
「お前、もう少しマシな言い方したらどうだ?」
呆れたように、男は言う。
心なしか、少し態度が和らいだようにも見える。
「前のときのことは覚えてるぜ。新聞、普通にめくってただろ。生まれつきのはずが無え」
「――だとしたら?」
“お前には関係ない”との意を込め、僕は言う。
真正面から僕の顔を見据えて。
男はひとつ、大きく息をつく。
「この夜中じゃ見分けにくかったがな、証拠、その面に残ってるぜ。なあ、話してみなよ、兄ちゃん。今回のところは、一度それで勘弁してやらあ」