7/350
講和
どうやら、戦争が終わったらしい。
そんな噂が聞こえてきたのは秋、冬も間近な日のことだった。
小さな島国と大きな陸国が戦争をして、意外にも、島国の圧倒で終わったのだとか。
ぶどう一粒ほどの島が、雪豹ほどの陸を倒した。
――昔話の巨人でもつまずくことがあるのか。
――昔話の英雄でも石には転ぶだろう。
――いや石は石、二度はないだろう。
小さな村の人々は、そんなことどもを話し合っていた。
なるほど、と僕は思う。
無名であるとは、つまりそう言うことなのだ。
小国は小国でしかなく、大は小を兼ねない。
1895年、秋。僕は働いていた。
それなりの広さの農場の片隅、つまり村の料理屋のすぐ隣で。
労働には慣れたものの、空腹どきにトマトと肉の香辛料煮の匂いはやはりこたえる。
それを察してか、僕の雇い主は声を掛けてくる。
「これが終わったらお昼にしましょう」
「あと半時くらいかな? 了解」
何はともあれ、僕は働いていた。
後にロシアを支配するはずの魔女、ジョゼファの下で。