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魔女と同志
「――いや、そんなことは」
頭を振り、僕は否定する。
一瞬だけ垣間見た、赤に染まった大地を。
少なくとも僕は、もうジョゼファの――全ロシアを治めたという赤い魔女、鉄の女への――変貌は食い止めたはずだ。
自由の利く右手で、ぎこちない左腕に触れる。
両頬に残った痘痕とこの左腕が、村を襲った流行り病、唯一の痕跡だった。
伝記的事実として。
鉄の女には、幼少の頃かかった天然痘の跡が残っていたとされる。
一方、ジョゼファはどうか。
あの流行り病以降も、彼女の両頬はきれいなままだ。
僕とは違い、病の姿は跡形もない。
「――久しぶりだな、同志」
前方からのその声に。
物思いを断つように僕は現実に引き戻され、前を見る。
「おやおや、お忘れかな? 感動の再会じゃないか、もっと嬉しがってくれていい」
忘れるはずもない。
僕に流行り病への予防手段を渡した男。
正体不明の集団に僕を招いた、あの男だった。