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祝祭の冬
「――どうしたものかな」
1月半ば。
冬宮殿から一人の帰り道、思わず独り言がこぼれる。
感心と戸惑い。
それが僕の、偽らざる本音だった。
水の祝祭は見事なものだった。
ネヴァ川と冬宮殿で行われるこの祝祭は、宮殿の恒例行事だと言う。
若干29歳の皇帝、ニコライ2世。
25歳の皇后、アレクサンドラ。
生まれたばかりの皇女たち、オリガとタチアナ。
取り巻く大勢の、いかにも貴族然とした宝石で着飾った、3000をこえる人々。
彼らを一度に収める大ホールでの舞踏会は、しばし時間を忘れさせるほどだ。
エフゲニー氏にひとり招かれた僕は、その様に圧倒された。
立派。
立派だったのは確かなのだ。
けれども――。
少し考えた末に、僕はたどり着く。
あの場所はたぶん、あまりに文化的に過ぎたのだ。
王侯貴族とそれ以外を分け隔て、無言の内に隔離する行事。
中世でも近世でもない、19世紀も終わろうという時だと言うのに。
その“甘さ”が僕には、ひどくあやういもののように思われたのだった。