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運と才
「でも……」
「――それでも僕に言うのかな。力を尽くせ、てさ」
初めて挑発的に、僕は言う。
「もちろん、僕は運がいい。君に拾ってもらえて、数年こうして生き延びることができる程度には。そして世の中には、運も才も、力さえも、ひときわ恵まれている旅人がいるのかも知れない――でも僕は違う、そいつらとは違う、単にほんの少しだけ先の、知識を持っただけの人間でしかないよ」
それから王家の呪いについて、僕は話した。
呪いが今に至る経緯と、知る限りの手だてと。
その手だてをとることの難しさを。
「幻滅させちゃったかな。何か期待させてたなら、悪いことをしたと思う」
「私は……」
「慰めならいらないよ。同情もだけど」
そんなものは今まっぴらだ。
「ただ、僕は僕で考えた末のことではあるんだ……そのことだけは覚えていて欲しい」
僕の嘆息と。
僕ら二人の、石のような沈黙。




