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手の内
「どういうつもり?」
エフゲニー氏を見送った後、彼女は問い出す。
「まだ何か、もう少しあるんでしょ」
今度は僕も、はぐらかすつもりはない。
その必要もない相手だ。
「うん」
「じゃあ何で」
珍しく直情的な彼女を、いったん僕はとどめる。
「――たとえば、の話だけど」
はぐらかす訳じゃない。
彼女を信じた上での話のつもりだ。
「地水風火が元素だという人に、物質の成り立ちを告げる意味はあるのかな。僕が知っていることはもちろんある。でも、それを全部が全部、扱える訳じゃないんだ」
押し黙った彼女を前に、僕は続ける。
「水時計や火時計を飛ばして、ゼンマイ時計を作ることはほとんどできないよね? 物事にはいろいろ順序があって、無理矢理それを飛ばすことはできないんだよ。上手く伝わってるかは分からないけど……」
王家の病の正体も、ある程度の対処法も分かってはいる。
でも、ただそれだけだ。
それを実行に移すには、僕には力が足りていない。
圧倒的に、力が。