61/350
切望
「――実際に診たことはおありですか?」
「と申しますと?」
「呪いを受けた方がお生まれになるご様子を、です」
「……いえ」
ならば、心構えだけでも持っていてもらうべきだろう。
これから真っ先に立ち会うことになるのは、間違いなく氏なのだから。
「予言する訳ではありませんが、そのときはすぐに分かることと思います。何はともあれ、いざというときに備えてはおくべきでしょう」
出産ともなれば、出血する事態には事欠かない。
病かどうかは、すぐにそれと知れるはずだ。
この時代、血友病をわずらったまま長く生きる望みは薄い。
けれども一切の望みがないかと言うと、決してそんなことはない。
男親が血友病の場合、女児は症状が出ず男児は健康なのが知られている。
つまり、生まれて来た男の子が育ち、あるとき男の子を授かったなら。
少なくともその子の血筋は、“呪い”から解放されることになるはずだ。
――40年以上に及ぶ平穏が、これからのロシアで許されるならば。