信仰
安上がりな本にも満たないサイズの、ありふれた小型機械。
立ち止まり何かを調べようとして、誰が怪しむでもない。
でもそれは、110年ほど後の話だ。
剛性ガラスと貴金属でできた、場所外れの機械。
電波は届かず電源の当てもない上に、事故の衝撃で画面の少しひび割れたガラクタ。
これを目の前のーーおそらくは不審を抱きつつあるーー彼女に、どう説明したものだろう。
厄介すぎる。厄介すぎて思わず、神さまにでも祈りたくなる。
このとき、僕が祈りたくなったのは幸いだった。
少なくともこの瞬間、“何か”が手を貸してくれたのだと思う。
「あなたにとってもそうかは分からないけど」
電源を切り画面を真っ暗にしながら、僕は切り出す。
「大事なものなんだ。この通り、ひび割れてしまったけど」
言ってガラス面を見せた後で、右手に持ったまま十字を切った。
嘘じゃない。
この機械が大事なのも、目の前の彼女にとってどうか分からないのも本当だ。
ただ嘘ではないと言うだけ。“勘違い”が分かったなら、追い追い訂正していけばいい。
たとえばこの機械を、護符か何かと思うような誤解は。
「……分かったわ」
「ありがとう」
ゆっくりと、僕は手を差し出す。
あとは何とか、この後の助けを求めるだけだ。
ともあれ前途の難は多そうだった。
今度ばかりは、祈ってもいられないくらいに。