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前置き
「どうぞ、あなた方のお力を」
エフゲニー氏の言葉に、僕は我に返る。
彼女だけではなく、僕にも向けられた言葉に。
「どうか頭をお上げ下さい。詳しいことは分かりかねますが――」
ようやく、僕は切り返した。
従者としての立場をもはや離れて。
頭を上げた氏を、真っ直ぐ見据える。
「いえ、今のあなたに、仔細を伺うことはいたしません。第一、まだ起こってもいないことのはずです。そのことについてまず、言葉を慎みたく考えております」
まだ起こってもいないこと。
今年生まれるのが皇女であること、次もその次も皇女であること。
5人目に生まれるのが、病を生まれ持った皇子であること。
――それらを遠因に、一家が民から疎まれるに至ること。
そう、あくまで可能性の話なのだ。
あくまで僕がいた歴史のこと、この今もそうだとは限らないはずだ。
それはうそ偽りのない、僕の願いでもあった。
「ですが、仮定のお話でしたらできましょう。あくまで、仮定の話ではありますが――」
「……ぜひ、お願いしたく思います」