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遺伝病
ロシア王家の血の呪いとは何か。
遺伝性の、血液の凝固に支障をきたす病。
つまり血友病のことだ。
王家の場合はこうだ。
まず、アレクサンドラ皇后が血友病遺伝子を持っている。
子供が男の子の場合、50%の確率で血友病の症状が出る。
一方で女の子の場合はもう片方、つまりニコライ2世の遺伝子が代理で働くため、血友病はほぼ発現しない。
これこそが代々受け継がれている呪いの正体だ。
そして僕の知る限り、それがほぼ全てでもある。
遺伝子を改変し修正するなどという技術が、19世紀末にあるはずもない。
そもそもまだ、遺伝子という概念が提唱されてすらいないのだから。
いや僕のいた21世紀でさえ、完全に治す方法は確立されていなかったはずだ。
かろうじて言えるとするなら、凝血成分の適宜の輸血だろうか。
でも血液型の概念はなく単純な輸血もままならない今、こう披露する意味があるのかどうか。
無力な僕の、それが知識の限界だった。
歯噛みしながら、僕は思う。
使えることのない知識は無に等しいのだと。