言い分
けれども、言い訳の結果はあまり変わらないようだった。
「……このことは、くれぐれも内密に願います」
いったい、氏はなぜ頷いてしまったのだろう。
このときまでなら、いくらでも回避できたはずなのに。
僕らに深々と下げられた頭を見て、僕は己の迂闊さを呪うことしかできない。
何しろ僕は、エフゲニー氏の懸念を“見事に当てて”しまったのだから。
洞察や超能力は勘違いであって、実は問題そのものを知っていた。
そんなこと、氏にとっては予想外でしかないだろう。
「――ええ、もちろんです」
口ごもる僕をよそに、彼女は言う。
十分に間を置いて、威厳を持たせた口調で。
こうなっては彼女の存在がいっそう心強い。
「……ありがとうございます。では、打開策の方もお願いできますか? たいへん残念ではありますが、私の力では……」
氏が浮かべた表情は、偽りようのない無念さだった。
おそらくは主治医として、いざというときの為にあらゆる手を尽くそうとしたのだろう。
そうしてなお、力及ばなかった。決壊、との単語が頭に浮かぶ。
心境を察せていなかったのは僕の方だ。
けれども。
もうひとつ、エフゲニー氏には勘違いしていることがある。
何かの原因を知っているからと言って、その解決策を知っているとは限らないことだ。