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のろい
「あなたの意は汲みましょう。どうぞ続きを」
「――話は、お館様の子供たちの話です。今お一人、ご息女がいらっしゃいます。この方のご健康については何も心配ありません。ですが、この先ご子息がお生まれになった場合、私どもには懸念があります。その件についてお訊ねしたいのです」
「と言うと?」
やはり気が重いことなのだろう。
一呼吸を置いて、エフゲニー氏は言う。
「奥方様のご実家は、しばらく前から血が呪われていらっしゃいます。文字通り、血に関するお話です」
血? 僕の中で何かが引っかかる。
医師だという氏の職業から考えて、迷信とは考えがたい。
まだ血液型すら発見されていないこの時代でも、明確に分かる“呪い”。
「繰り返しますが、ご息女には何も心配がありません。ですが、ご子息が誕生された場合、半ば呪われていることになるのです。呪い、などと前時代的なことを言うようですが、残念ながら本当なのです」
男系に半分の確率で発現する、呪われた血。
思わず、僕はつぶやいていた。
「ロシア王家?」
会話は途切れ。その空気はひどく重苦しい。