お芝居
もっとも、僕は僕で、このお芝居に乗り気だったことは記しておきたい。
今まで僕は、迂闊に何かを公言する訳にはいかなかった。
100年後の知識をふるうことは、力を誇示することにほかならない。
それはまた、自らの立場をあやうくすることでもある。
“奇跡”を目の当たりにした人々が、素直に平伏する――そんな寛容は、はかない一夜のおとぎ話でしかないのだから。
けれども。
手品の舞台が整ったとなると、話が変わってくる。
魔術は魔術でしかなく、それ以上でも以下でもないはずだ。
サーカスでもお芝居でもいい。
ともあれそこは、僕が役に立てる舞台だ。
ささやかながらも人助けになるのなら、それはそれでうれしい。
不安があるとすれば、あの男のことだった。
どこからともなく、流行り病へのワクチンを調達してみせた者。
「また」とだけ言い残し、僕から去って行った者の。
想像するに、彼はなにがしかの採用担当だったのではないか。
各地を旅し、いざというときのために目星をつける。
彼(彼ら?)にとって僕らが“無用不要”であるなら、それに越したことはない。
――少なくとも、僕にとっては。