仕掛け
「では、今しばらくお待ち下さい」
そう言い残し、僕はテントに戻って行く。
「――今日はあと一人。疲れた?」
「疲れたわ」
そうは言うものの、口調には冗談の響きが強い。
童話めいた魔女衣装を身にまとい、ひとり円卓の中央に座る者。
世紀末の魔術師、あやかしの僧侶、あるいはコーカサスの魔女。
誰でもない、彼女、ジョゼファの姿だった。
「ユーリの方は?」
「僕は特に」
「本当? でも悪いわね、毎週私につき合わせて」
言われて、僕は右肩をすくめてみせた。
元はと言えば、彼女の発案だったのは本当だ。
彼女は託宣を受けた身であり、僕はその従者。
それが僕たちの――少なくとも対外的な――お話になっていた。
このご時世、突然の啓示を受けるのはそう珍しくないらしい。
啓示というのはつまり、「何々様のお言葉を」とか「誰々の生まれ変わりが」と言った風なことどもだ。
村の人にしてみれば、巡礼や布教の旅に出ないだけまだ、と言ったところだろうか。
流行り病を例外的にやり過ごせた功績もあって、僕らの現状はおおむね黙認されている。
先人たちと僕らの違いは、僕らには本当に力があったことだ。
彼女の読心と、少しばかりの僕の知識。
手品の裏側は、つまりはこんなところだった。
彼女の優しさゆえに生まれた、辺境の魔術。
なまじ本物であるからこそ、僕らは小道具とお芝居を必要としていた。
手品に見せかけておくためにも、手品は必要なのだ。