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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1897年、グルジア
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来訪者

「お待たせしました」


 ぎこちない左腕で、僕はテント(パラートゥカ)の方を示す。

 奇跡(チューダ)を待ち望む客人は、あと一人を残すだけだった。

 ――ひとまず、今日のところは。


 後遺症を負って以来、僕はできるだけ、人前で左腕を動かすようにしている。

 単に流行り病の跡を隠したいなら、不自由のない右腕を使えばいい。

 けれども動きの鈍くなった左腕は、代わりに鋭く、見る者のことを教えてくれる。


「初めまして。どうぞよろしくお願いします」


 派手過ぎない服装と丁寧な口調、明らかに誰かの使いの者と知れる。

 こういうときはたいてい、面倒ごとしかやって来ない。

 何回目かで学んで以来、僕は曖昧に断るようにしている。


「我が主の代わりにて、失礼いたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 その場で彼を弾かなかったのは、端々から強く敬意を感じたからだ。

 何に? 恐らくは仕える主への。

 そしてもちろん当地の魔女(ヴィーディマ)、すなわち彼女ジョゼファへの。


 先々代皇帝、アレクサンドル2世の農奴解放から36年。

 没落したポーランド貴族(シュラフタ)に暗殺されてからは、まだ16年しか経ってはいない。

 身分と格差が色濃く残るなか、貴族ならぬ僕らへの確かな敬意。

 控え目に言ってこれは、かなり珍しいことだった。

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