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曲行
ひとつ確かなことは、このときの僕が“深入り”を選んだことだ。
愚かと言いたければ、そう言うといい。
ただ、疲れていたとだけは言わせて欲しい。
でも、いったい何に?
いっこうに見つからない“薬”。
それでも消えない彼女の期待。
いつ迫り来るとも知れない病。
――つまりは、僕を取り囲む諸々に。
そしてこのとき、僕が思いも寄らなかったことも記しておこう。
簡潔に言うならば、知識とは力なのだと。
魔法と技術の峻別は、しばしば困難を伴う。
決して教育が行き届いていない環境であれば、なおのことだ。
僕が薬を手に入れ、彼女は薬の接種を説いた。
結果として。
流行り病が村を通り過ぎたとき、子供達や若い世代の犠牲はただの一人きりだった。
その一人も、量が不足気味なところを他の子供たちに回すよう願ったからだ。
当時の技術レベルを考えれば、ほとんど奇跡的と言っていい効き目だったろう。
こうして彼女は、奇妙な信頼を寄せられることになった。
村だけでない、近郊からも人が訪れるようになった。




