投降
危険が僕の身にも迫っているのは確かだ。
ワクチンにより天然痘が駆逐されて以降、少なくとも一般人は天然痘ワクチンと縁がない。
稀にウィルスが変異し病気を引き起こすこともあったのだ、本元の天然痘がなくなった以上、中止はある意味当然と言える。
僕もまた一般人であった以上、ワクチンにも、当然そこから得られる免疫にも縁がない。
この状態で“本元”に接した場合、生き死には完全な運だ。
状況によって4割をこえる死亡率に、あまたの後遺症。
かからないに越したことはないが、このグルジアが――ロシア帝国とトルコとの狭間に位置する――交通の要衝である以上、そうもいかないだろう。
人通りの多さは必然、持ち込まれる感染症の多さでもあるのだから。
もっとも、僕の身一つの問題なら、大したこととは思わなかったかも知れない。
僕が引っかかっているのは、彼女、ジョゼファの言葉だった。
天然痘とそのワクチンについて、僕が話したときの。
――それなら、村の子供たちも助かるわ。
もちろん、村ではまだ病が流行ってはいない。
けれども上の世代には、その恐ろしさを直に知る者は大勢いた。




