移行
休息までの時間は、思いのほか短かった。
僕ら以外の人はみんな、井戸のそばで休んでいる。
馬車の外に出て、思い思いに身体を伸ばしているのだろう。
もちろん、僕もそうするつもりだった。
「整理はついたかな?」
「ええ」
うなずき、僕は少し間を置いた。
もう一度、目の前の男を見る。
少なくとも、腕っ節がきくとは思いがたい。
不都合があれば、言わなければいいだけの話だ。
「トリビシには、用事があるんです」
「ほほう」
「人助け……なんだと思います。病気の薬のお話ですから」
考え込むように、男は言う。
「言いたくないならいいが、それは手に入りにくいものか?」
今度は僕が考え込む番だった。
事実として、僕は何度か、そのものの入手に失敗している。
「……ええ」
「あまり貴重なものなら無理だが手伝えるかも知れないな」
「伝手か何かですか?」
「まあそんなとこだ。ところで、実は“人材”を探していてね。もちろん、合法じゃない方面だが」
今日の天気はどうだろう、そんな調子の話しぶりだった。
あまりの不釣り合いさに、僕は問い返す。
「……もう一度いいですか?」
「二度は言えないな。ああ、念のために言うが、聞くなら深入りすることになる」




