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蛮行
「不要な荷物は持って行かないにこしたことはない。なら、その水筒が重要なのは誰でも分かる話だろう」
――はったりだ。
この水筒が何のためかなんて、分かるはずがない。
そう思いながら、僕はもう、目の前の男に口を挟めないでいた。
「水筒がいる、首都への用事……いやもっとも、これ以上はここでする話じゃないとは思うがね」
言われて僕は、ここがどこなのかを思い出した。
相変わらず、ほぼ満員の狭苦しい馬車は揺れている。
乗り合いの常で、みな無関心を装ってはいる。
それでも、周囲の人間がいることに変わりはない。
ここでする話じゃない――まさにこの男の言う通りだった。
「できれば、次の休憩でお聞かせ願いたいところだがね。無理にとは言わないが、乗りかかった船だ、手を貸せることもあるだろうさ」
「……ええ」
「あと一時間もない、話したいこととそうでないことを整理しておいてくれ」
僕がやろうとしていることは、まちがっても犯罪ではない。
その意識が、このときの僕をうなずかせた。