37/350
遂行
「ふむ、なるほどな……訳ありか。いや、済まなかったな」
何かを察したという風な物言いに。
今度は、僕の台詞の番だった。
「と言うと?」
挑発的な視線と共に、僕は訊ね返す。
当てられるものなら、当ててみるといい。
そんないたずらっぽい感情も込めて。
「水筒」
短く、ぶっきらぼうに男は言う。
このとき、僕はその意図をはかりかねていた。
確かに、僕のカバンの中には水筒がある。
でも、それが一体、どういう意味なのか。
「一応言っておこう、わざとではない。偶然、中が見えてね」
「できれば、端的にお願いできますか」
もったいぶるように手を顎に当て、男は続ける。
「最初から空だったろう」
「……それが何か」
「君はそう場当たりなようには見えない」
「買いかぶりですよ」
「まあ待ってくれ、まずはおしまいまで聞いてくれ」
少し腹立たしいものの、それより興味がまさった。
促すように、僕は一言を口にする。
「……伺いましょう」
「旅に出るには軽い方がいい。飲むものは休憩先や目的地のトリビシで足りる」