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道行
都会に住む人間の、無意識の傲慢さ。
腹の虫の居所が悪かった、とでも言えばいいのか。
いや、要はこのときの僕が、単に暇を持てあましていたのだろう。
「僕に時間があるかどうかは分かりません。なので、学び尽くしたいとは思っています」
返ってきたのは、いかにも意外、と言った顔だった。
ここから、少なくともふたつのことが分かる。
ひとつは、ある程度は察しがつく頭を持っていると言うこと。
もうひとつは、不意を突かれても怒り出すような真似はしないと言うことだ。
どうやら、話し相手には不自由せずに済みそうだった。
「……驚いたね。いったいどんな戦場を潜ってきたんだ? いや、話したくないなら、その、ここで止すが」
頭だけでなく、踏み込み過ぎない距離感もある。
ますます好ましい。
その好感を胸の内にしまいながら、僕は答える。
「いえ、そういう訳ではないですよ。田舎では単に、よそより人の命が軽いだけの話です」
「……なるほど。あまり年寄りを驚かさないでくれよ」
無論、そう言うほどに男は年をとっていない。
僕は再び、会話を返す。