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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
348/350

さらば師よ

「……分かりました」


 まずは同意し、退室の意を伝える。

 ただし、すぐに去ることはしない。

 わずかな時間ならば許されるはず。

 そうすれば、あるいは。

 かすかながらに、そう願って。


宰相・・には、その気はないのですか」

「何がだね」

「つまり、ロシアを離れる気は……です」


 苦しまぎれの問いだった。

 こちら(・・・)に来ないかとの、言外の誘い。

 それに乗るような相手ではない、それは分かっている。


「申し出はありがたいが――先程、述べた通りだよ。乗りかかった船だ、中途で降りる気にはなれない」

「それが今にも座礁しかねない船でも、ですか」

「ああ。ともあれ、老いぼれるまで長居した船だ。君には価値を見い出せないであろう、どんな老いぼれ船であろうとね」


 己と船を重ねての言い回し。

 片方を否定すれば、もう片方も否定せざるを得ない。

 ふたつを切り離す方法を、この時の僕は思いつけなかった。

 船と人とをつなぐロープは、ついに結ばれたままだ。


「長生きしようじゃないか――お互いに」

「ええ、ええ……そうありたいと、思ってはいます」


 互いに本音ではある。

 悲しいかな、本音であると言うだけだ。


 話は尽きた。

 もはや交わることはない。

 その事は、痛いほど分かった。

 いや、初めから分かっていたはずだ。

 そのはずなのに。

 どうしたものだろう、なんとも言えず、寂しい。


 やがて、その時が来た。

 言い出しかねていた言葉が、やっと口をつく。


「……では」

「では――願わくば、また」


 老宰相の願いは。

 後に、半分だけ叶うことになる。

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