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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
346/350

救い

 一方で、取り返しがつかない事もある。

 いやむしろ、そちらの方が圧倒的に多い。

 小国に勝てなかった事実は、ほとんど敗戦に等しい。

 では今のロシアにとって、問われるべきその責はどこか。

 ほかでもない、 皇帝ツァーリ の責だ。


「――私は恐らく、見ずに済むだろうな」

「いったい何をでしょうか?」

「ロシアの行く末を、だよ」


 行く末。

 その先がどうなるのか。

 老宰相が直接、目にすることはない。

 事実・・としてはそうだ。

 けれども。

 それは決して、不可視と等しくはない。

 その事実がまた、僕を感傷的にさせる。


「……少なくとも、座礁は避けたはずです」

「単に乗り上げていないというだけだよ、衝突と亀裂は否定しようがない」


 その認識の正確さが、ほとんどやり切れない。


「――そしてその亀裂は、この度の事故・・だけが原因ではない。もっとずっと根深い、建造当時からのものだ」

「もっと大規模な修理が必要だ、と?」

「あるいは、ね」


 大規模な修理で済まないとしたら。

 その亀裂はすなわち、修理不能ではないのか。

 これが船ならばいい。

 新造することも乗り換えることも出来る。

 だが、それがロシアならば?


「――見えてはいるのだよ」

「この度の行く末が、ですか……」

「然り」

「では何故……」


 あくまで静かに、老宰相は右手を前に出す。

 その先はいい、そんな制し方だ。

 手を引いてから、続ける。


「ここで見捨てるのは、性に合わないからね。無論、私は船長ではない。しかしその近くの者ではある。そんな立場の者が、座礁しかけた船から率先して去る――乗員たち乗客たちを見捨ててね。それはさすがに、道理に反するとは思わないかね」

「……理解はします」

「その言葉に、いまは感謝するよ。無理に賛成までする必要はない――理解すれど賛成はしない、そんな者がもっと居れば、なにか変わっていたのかも知れないな」


 それが誰の周囲の事とは、あえて聞かなかった。

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