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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
345/350

後世

 ごく一部、取り返しのついたこともある。

 たとえば、戦争の賠償金がそうだ。

 敗戦国は多かれ少なかれ、相手の戦費も背負わされる。

 良い悪いではない、ほとんど当たり前に近い話だ。


 けれども、このたびの戦争はどうか。

 実質的な継戦能力はお互いにない。

 そう看破した老宰相は、あらかじめ見越して動いた。


  ――裏も表もない。

  ――われわれは平和を求めているつもりだ。

  ――君たちにとっては、地味で残念かも知れないがね。


 取材する人々に対して、そう言って回った。

 交渉は決して当事者だけのものではない。

 現地の新聞――最新鋭のメディアもまた、重要な要素になり得る。

 そしてその書き手は、つまるところ人間だ。

 隠そうとしても、どうしても私情が入る。それが人間というものだ。

 ある時は迎え入れ、ある時は率直に話す。

 そうされれば、どうしても贔屓ひいきは入る。

 ……一歩先を見据えた立ち回りは、僕の目からも見事というほかない。


 けれども。

 それはあくまで、一歩引いた目から見てに過ぎない。

 片や賠償金までを求める新興国。

 片やゼロ回答を想定する帝国。

 帝国にとってみれば、このたびの領土割譲は屈辱でしかない。

 東の果てとはいえ、島をくれてやるのか、と。

 老宰相も、無論それは分かっている。

 分かってはいるのだ。

 ロシアで、自分が歓迎されることはないと。


「――想像力というのは、厄介なものだね」


 ここでの想像力とは、つまりは見る目のことだろう。

 見えること。それ自体の持つ厄介さ。

 見えてさえいれば、なにか確約される訳でもない。


「……あなたの働きは、いずれ報われる時が来ます」


 どう報われるのか。

 その時がいつになるのか。

 敢えて明言はしない。

 それでも、言わずにはいられなかった。


「その事は、僕が請け負います」


 僕のその保証が、わずかな慰めにしか成らないとしても。

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