後世
ごく一部、取り返しのついたこともある。
たとえば、戦争の賠償金がそうだ。
敗戦国は多かれ少なかれ、相手の戦費も背負わされる。
良い悪いではない、ほとんど当たり前に近い話だ。
けれども、このたびの戦争はどうか。
実質的な継戦能力はお互いにない。
そう看破した老宰相は、あらかじめ見越して動いた。
――裏も表もない。
――われわれは平和を求めているつもりだ。
――君たちにとっては、地味で残念かも知れないがね。
取材する人々に対して、そう言って回った。
交渉は決して当事者だけのものではない。
現地の新聞――最新鋭のメディアもまた、重要な要素になり得る。
そしてその書き手は、つまるところ人間だ。
隠そうとしても、どうしても私情が入る。それが人間というものだ。
ある時は迎え入れ、ある時は率直に話す。
そうされれば、どうしても贔屓は入る。
……一歩先を見据えた立ち回りは、僕の目からも見事というほかない。
けれども。
それはあくまで、一歩引いた目から見てに過ぎない。
片や賠償金までを求める新興国。
片やゼロ回答を想定する帝国。
帝国にとってみれば、このたびの領土割譲は屈辱でしかない。
東の果てとはいえ、島をくれてやるのか、と。
老宰相も、無論それは分かっている。
分かってはいるのだ。
ロシアで、自分が歓迎されることはないと。
「――想像力というのは、厄介なものだね」
ここでの想像力とは、つまりは見る目のことだろう。
見えること。それ自体の持つ厄介さ。
見えてさえいれば、なにか確約される訳でもない。
「……あなたの働きは、いずれ報われる時が来ます」
どう報われるのか。
その時がいつになるのか。
敢えて明言はしない。
それでも、言わずにはいられなかった。
「その事は、僕が請け負います」
僕のその保証が、わずかな慰めにしか成らないとしても。




