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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
344/350

想像

 どちらともなく、やがて手を離した。

 どちらが強く握ったでもない。

 互いの右手は、程なく元の温度に戻っていく。


「……こちらも、ひとつだけ良いですか」

「何なりと――こちらが出来る範囲ならば」


 見逃すはずもない、先程の僕の返答方法だ。

 冗談を冗談と受け止め、軽く笑みを返し。

 そのまま、僕は言葉を加える。


「分割して頂きたいです」

「何をだね」

「無論、小切手を」


 十中八九、受け入れられる提案ではある。

 けれども、それだけに適当はできない。

 余興とも言える時間は、一種の試問でもあるはずだ。


「額が額です、一度に使うには多すぎる。と言って、現金として持ち運ぶ訳にはいきませんから。それに」

「それに?」

「この額を引き出すともなれば、どうしても噂が立つ……顧客が顧客であっても、です」


 人の口に戸は立てられない。

 むろん、数秒で世界を駆け巡るほどの速さはない。

 けれども、持続の面ではどうか。

 TVはもちろん、ラジオも無いに等しい。

 今はまだ、娯楽が少ない世なのだ。

 噂の持つ力を、決して甘く見る訳には行かない。


「ふむ――この手の額を扱かったことは?」

「小切手ではありません。ゆえに、純粋に想像力の問題です」

「良かろう。君の言う通り、取り計らうとしよう。しかし、想像力、か――」


 老宰相は少しだけ遠くを見つめる。


「想像力。それを 皇帝ツァーリ が持っていれば、私が出るまでもなかっただろうな」


 ――そうかも知れない。

 戦争さえなければ、決定的な出番もなかっただろう。

 形式的な敗戦国・・・として、アメリカの港町まで出向くことは。


「……言っても詮ない事です」

「今さら、臣下の儀礼は不要だよ」

「単なる事実です、儀礼を払ったつもりはありません。それに」


 率直な意を、僕は述べる。


「……取り返しはつかない。こう言った方が、無礼にあたるかも知れません」

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