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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
342/350

可否

「――ひとつ、物を書こうと思っていてね」

「物を……ですか」

「率直に言えば、包み隠さぬ自伝という奴を、だ。君には、その手伝いをしてもらいたい」


 言われて、少しだけ思いを巡らせる。

 僕と老宰相とは会って間がない。

 記憶という点で、助けになれることは限られる。

 と言って実務面、口述筆記なら専門職がいるはず。

 仮にタイプライターを用いても、数ヶ月かかるだろう。

 それだけの期間さらに、つきっきりが可能とも考えにくい。


「手伝えることと言えば、実質何もなさそうですが」

「ふむ。おそらく、君が考えている部分ではないな――書く前でも最中でもない、そのの話だよ」


 書き上げたその後。

 一体何か、僕に出来るのだろうか。


「その後の話、ですか……」

「つまり、だ。私が書き上げた後、その原稿はどうなる」

「本になるのでしょう」

「率直に書く、と言った」

「……なるほど」


 恐らくは、すぐ公刊することはないのだろう。

 ならば、その時はいつか。

 ……いや、と僕は思い直す。

 この際、それがいつかは問題ではない。

 その時が来るまで、誰がどう保管するか、だ。

 何であれ、破棄するために書く者はいないのだから。


「そして君の方が、おそらく長く生きるはずだ――私よりは、ね」


 無論、死人が現世を確認する術はないはずだ。

 そしてそれは、あくまで前提。

 両者ともの了解でしかない。

 ならば、と僕は考える。

 その前提の上で、果たして何を問われているのか。


「分かりました。もちろん、直接の保管は難しいですが……」


 覚悟を。

 意志を問うていると、僕は考えた。

 百も承知の上で、こちらの意志を。


「任せて下さい」


 ゆえに、僕は表した。

 簡潔に、今の意志を。


「――よかろう」


 老宰相は笑っていた。

 心なし、不敵さをたたえた笑みで。


「大きな悩み事が、ひとつだけ消えそうだ」

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