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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
341/350

提示

「――小切手のことであれば、心配は不要だ」


 この時代の追跡がどの程度か、まさか試す訳にも行かない。

 僕はそのまま、貴重な情報を得ることにする。


「使う名義はロシアではない、私名義だよ。仮に小切手を切るならば」

「ロシア、いや、皇帝ツァーリらに知られることはない……と」

「然り。もし君が望むなら、その名義でも構わないが」


 むろん、最後は冗談だろう。

 皇帝ツァーリに知られるとは、すなわち他者にも知られること。

 腹心か、あるいは反逆の徒。

 ほかでもない、彼女ジョゼファにも。


「魅力的な申し出ですね」


 額だけで言えば受け取るべきだ。

 銀行強盗でもしない限り、おいそれと稼げる額ではない。

 ゆえに、受け取るべきだろう。だが。


「なんとも魅力的ですが……まずは、そちらのご条件を」


 はやる心を制し、僕は尋ねる。


「条件を提示して頂く前に、報酬を受け取る訳には生きません」

「受け取って、約束を破る手もある――君がお望みならば、小切手もろとも」

「そればかりは、出来ません」

「君でも惜しいかね」

「ええ、惜しいです。約束を守るという、そんな世評の方は」


 そう。相手が誰であれ、だ。

 破れば必然、ついて回ることになる。

 信頼に値しないとの、名誉でない名前が。

 よほどの大義名分がない限り。

 あるいは、相手によほどの汚名がない限り。

 あらかじめ違える類の約束は、決して受けてはならない。

 それこそ、この度に免れた最低賠償額――20億円すべてを積まれたとしても。


「……ですので、まずはご提示下さい。お受けするかどうか、聞いてから判断します」


 そして、先ほど受けた恩義を軽く返す。


「無かったことにする場合は、です。この話は、本当に無かったことにします」


 露見して都合が悪いのは互いに同じだ。

 それでも、明かすつもりはないとの意志表示。

 少なくとも、老宰相の生きている間は。

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