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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
340/350

出立

「ひとまず、だ。この後、君はどうするかね?」

「おそらく、ペテルブルクへ……便で、帰ろうと思います」


 飛行機でと言いかけ、あやうく思いとどまる。

 2年前、空を飛ぶ者こそ既に出たものの。

 大勢が空を飛び始めるのは、まだ数年は先のことだ。


「いったん、日本へ行く手もありますが」


 一度ロシアに戻れば、ふたたび日本へ行くのは難しい。

 けれども戦間期のわずかな間なら、決して不可能ではないはずだ。


「……正直なところ、迷いますね。この時代、少々稼いだところで、あちこち行き来できる訳ではありませんから」


 アメリカからロシアへの便。

 僕が乗った頃の飛行機ならば、せいぜい10万円前後だったはずだ。

 安いとは言わない。それでも、一月働けば往復には足りた。


「――ふむ。言われてみれば、報酬の話がまだだったな」


 催促のつもりはなかった。

 それだけは言っておきたい。


「……そう言えば、そうでした」

「ジョゼファ氏からも、特に書いてはいなかったな」


 いかにも、困りものだと言った風に。

 少しの間だけ、和やかな空気が流れる。


 やがて老宰相は、テーブル上の紙と筆記用具を引き寄せる。

 手に取るはもちろん万年筆だ。

 そのまま、流暢に文面が記されていく。


「――これでどうだね。よければ、この額を小切手に書くとしよう」

「……ちょっと、多すぎます」


 旅行どころではない。

 船の一艘は買えそうな額だ。


「決して多すぎはしない、と私は考えるがね」

「……確かに、払わずに済む賠償金と比べれば、些細な額かも知れませんが」

「代わりに、ひとつ頼みたいことがある。私からの、ごく個人的なことだ」


 個人的な頼みごと。

 その言葉の重さを、しばし噛みしめる。

 安易に受けることは、さすがに出来そうもない。

 考えた末に、僕は答える。


「ひとまず、伺うだけでも良ければ」

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