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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
339/350

淀み

「選挙でも議会でも――極端に言えば皇帝でもいい。定期的な交代と引き継ぎが存在するならば」


 定期的な交代・・

 それが皇帝にあり得ないことと、互いに承知している。

 アレクサンドル3世の病没から既に11年。

 現在の皇帝は、いまだその地位にある。


「逆に言えば、だ。交代がないのであれば、皇帝の統治と変わらぬだろうな。水の性質を変えることは出来ない。飲むに値する水を欲するならば、水を交換するほかない。流れぬ水は必然、いずれ淀むのだから」

「冬に凍てついたネヴァ川のように、ですか」

「あれも、氷の底で流れてはいるがね――とはいえ、春夏の流れとは比較にならぬだろうな」

「その氷を砕くおつもり、ですか……冬のネヴァ川を」

「――溺死する者が少なくなるように、ではあるがね」


 砕氷。

 それが成功するなら、望ましいことではある。

 ロシアにとっては望ましいこと、そのはずだ。

 だが、そのロシアとは何なのだろう。

 王侯貴族たちにとってのロシア。

 そんな幻想でしか、もはやあり得ないのではないか。


「君は主義者・・・だろう。何であれ、交代についても考えておくといい」

「……それも、ご自身で調べた結果ですか」

「いや、ジョゼファ氏の推薦状に書かれていたよ。さしたる問題ではないという風に、片隅へ小さくね」


 つまり百も承知で、雇ってみせたと言うことか。

 使えると判断すれば、出自を問わずに使う。

 つくづく、老宰相は度量が大きい。

 ――いや、それにも増して、大きいのは。


「過分なお言葉、とでも言えばいいでしょうか……」


 浮かぶ思いを振り払いながら、僕。

 それを認めたら、何もかも振り出しになる気がした。


「事実として、君たちが治めないとも限るまい。あるいは、年寄りの繰り言かも知れないが――」

「……痛み入ります」


 ごく自然に礼を言えた。

 両手をスーツの胸元にやり、そのまま引き裂くような素振りを見せる。

 真実のための覚悟。

 そんな風な意味の身振りだ。

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