制度
「皇帝の存在は、制度としては時代遅れ……ですか」
「然り。君の郷里も、そこから移行して久しいはずだろう」
15年前の帝国議会選挙のことと、すぐに気付いた。
とは言え、経緯を言うのも簡単ではない。
移行中ではあるものの、久しいとも言いがたい。
「仰る通り、半ば移行してはいますね。選挙権を持つものが少ない、まだ制限選挙ではありますが」
「歩み出しただけ進歩だよ。後は、その歩みを違えなければいい」
確かに、そうなのかも知れない。
男子限定での普通選挙成立は20年後。
完全な普通選挙の成立はさらに20年後、1945年になるはずだった。
「何しろ我らがロシアは、まだ歩み出してすらいないのだから」
「強大な力を持つ国が、ですか」
「強大さと時代遅れは両立することもある――もっとも、両立し続けるのは不可能だろうが」
強大さ。
ロシアのそれは、大いに傷ついた。
アメリカに仲裁までされた、この度の戦争で。
「とは言え、だ。選挙それ自体に利点はない、と私は見ている」
「ならば、何に?」
「交代だよ。権力の交代を可能にする制度、それ自体だ」
分かるようで分からない。
曖昧に頷き、先を促す。
「凡庸な者が傑物を生む。素晴らしい、存分に活躍して頂きたいものだ。しかし、逆ならどうか。 それも、傑物が皇帝であったなら」
今の皇帝が傑物である訳はない。
互いに、それを承知の上の話だ。
「愚物が息子であればまだいい、傑物の目が及ぶだろう。だが孫ならどうか。さらには曾孫、玄孫の代なら――たとえ傑物でも、そこまで目が及ぶまい。また、及ぶと見るべきではない」
思い当たる節はあった。
代を追うに従い、血縁関係者は増える。
中には、皇帝の名を悪用する者も出ることだろう。
血筋以外、何ひとつ取り柄を持たぬ者であればあるほど。
恐らくそれは、完全に防ぐことなど出来ない。
予防出来るとすれば、それは。
浮かびかけた考えを打ち消し、僕は言う。
「そのための議会、その為の交代制度ですか」
 




