世俗
「ジョゼファ氏については、計りかねる事が多すぎる」
「……そこまで、分からないものでしょうか」
「率直に言えば、そうだ。もっとも。この件に関して言えば、君の理解の方が深いはずだがね」
「元相棒である、僕の方が、とでも」
確かに、相棒ではあった。
僕の方はそのつもりだ。
でもそれはあくまで、かつての話だ。
「――むこうの方は、そう思ってないかも知れないな」
「最初から相棒だなんて思っていなかった、と?」
穏やかに、老宰相は首を振る。
僕のお手つきを、そっと正すかのように。
「違うのは相棒の方ではないよ、元の方だ」
心臓が痛む。
見ないふりをしていた急所に、杭を打たれた気がして。
そうであっても不思議ではない。
不思議ではない、けれど。
「あくまでも、元、です……少なくとも、今の僕の中では」
「――そうか。ならば今は、そう言う事にしておこう」
「さすがに話が早い、助かります」
「助けついでに、このことも言っておこう。君達は存外、似ているのだよ」
心外だった。
考えたことさえ無かったはずだ。
それとも、傍目にはそう見えているのか。
「……正直なところ、初耳です」
「ならば、言う意味があったという事だ」
「でしたら。よろしければの話ですが、具体的にはどこが」
「ほかでもない、世俗からの遠さが、だよ」
冗談ではなさそうだ。
といって、必ずしも褒める風でもない。
それこそ、真意を計りかねた。
「君も――恐らくはジョゼファ氏も――行動原理が常人の延長線上にない。と言って、常人の考えを解せぬ訳でもない。その事が、ある種の強みでもある」
「裏を返せば、弱みでもある、と?」
「然り。もっとも、君の場合に限って言えば、だがね」
かなり痛いが、事実だろう。
「及んでいない、と」
「事実としては、そうだ。だが――可能性はある、そう私は見ているよ」




