数字
「ずいぶんと、曖昧ですね」
はっきり、言葉にした。
「僕よりは分かっているはずと、そう思っていましたが」
「――何しろ、数字が違うからな」
口調にも、やや苦さが交じる。
これもまた、本音なのだろう。
「1離れると付いて行くのがやっとになる、2離れると極めて難しい。あくまで、私の持論だがね」
「なら、彼女は……」
「本来、私の理解の及ぶところではない。それだけは確かだ」
認識を述べつつも。
その口振りは、さすがに淡々とではない。
濃すぎるコーヒーを含んだような表情。
「5の私が遠く及ばない。ゆえに、7か8と推測した。しかし――」
老宰相は口ごもる。
わずかに、何かを言い出しかねる様に。
「しかし、だ。見えている者ならば、見えていない振りをする事もできる」
「彼女 が、それ以上かも知れない、と?」
「あるいは。その可能性は否定できない所だ」
「そこまでして、なにか得があるとは思えませんが……」
奇妙に、間が空いた。
何かを恐れるかのように。
「――相手、つまり私に合わせたなら、そうなるかも知れない」
「あなたに分かるよう、敢えてレベルを合わせている、とでも?」
下げている、とまでは言いかねた。
さすがに気の毒な話だろうから。
静かに頷き、老宰相は続ける。
「あまりにかけ離れていては、理解不能と言うだけに止まるかも知れない。それならば少し近づき、分かり易くする、そうすることで得る利はある。半端に手を出せば火傷しかねない、とね」
「それは……確かに」
「加えて、だ。稀に、何か薄い、あるいは欠けている者がいる。名誉でも金銭でもいい。たいていの者は、ひとつとして満たされない。そして、ひとつ満たされれば他を欲するものだ」
なるほどと僕は思う。
たいていの場合、そこから推測可能なのだろう。
「しかし、ごく稀に、それらが欠けた者もいる――およそ世俗からは計れない者が、ね」




