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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
333/350

虚実

「――ありのままに、か」


 しばし、老宰相は目をつむる。

 それまでの、歩んで来た道を思い出すかのように。


「難しい。今もって難しいことだ。単純なようで、あまりにも多くが絡む」

「……あなたが出来ていないとは、とても思えませんが」

「比較の問題だよ。皆が1か2であるならば、5があれば十二分に足りる――たとえ満点が、100であったとしても」

「100点中の5点、ですか」


 ずいぶん控え目な数字だと、僕には思えた。

 もっとも、案外そんな風なのかも知れない。

 5を見越せる者。そんな者だけが見える景色からは。


「君も、いずれそう思えるようになるはずだ――4から5に届いたならば」

「……過分な言葉、恐れ入ります」

「単に事実だよ。簡潔に事実を述べること。事実をして1つ語ることが、100の術より有効なこともある」


 恐らくは、それも事実なのだろう。

 虚々実々。虚だけを重ねるようでは意味がない。

 ただ虚の裏をとられて終わるだけだ。

 虚だけでも実だけでも意味がない。

 虚と実を行き来できて、はじめて意味を成す。


「ともあれ、除いてみることだ。見るに際し、余念を除くこと。無論、全部は不可能だが」


 余念。

 僕の余念とは、果たして何なのだろう。

 金、名誉、あるいは競争。

 どれも当てはまるようでいて、どれひとつでもない気がした。

 あるいは、と僕は思う。

 その突き詰められなさこそが、一種の余念なのか。


彼女ジョゼファ は」


 思わず、そう口にする。


「一体、どの位まで見えているのでしょうか……他でもない、5を見えていると言う、あなたの目からは」


 沈黙。

 駆け引きでは決してない。

 本当に考え込む類の、時間の流れ方だ。


「――7」


 やっと、そうとだけ返ってきた。


「――あるいは、8」


 なんとも曖昧だった。

 底知れなさの証明、そう思える類の曖昧さだ。

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