ウォッカ
「――私の話は、こんな所だ。そろそろ、君の話をしても良いかね」
それはつまり、老宰相が質問する側に回るということ。
わずかに考える。断る理由は、特にない。
「ええ、もちろん」
「では、端的に聞こう――君の方は、彼女をどう思っている?」
「僕が、彼女を……ですか」
「そう。他でもない、君がどう思っているのかを」
今度こそ、僕は考え込む。
まともに聞かれるのは初めてな気がした。
片や皇帝一家お気に入りの寵臣。
片や一介の革命家見習い。
どうしたものだろう。
今となってはその関係を、簡単に言う事ができない。
「相棒……でした」
何とか、その言葉が出た。
「彼女はかつて、僕の相棒でした」
「ふむ、過去形なのかね」
「……相棒だと、今そう言い切ることはできません」
屈託。
言ってしまえば、そうかも知れない。
主導権を持ったつもりでいた。
対等のつもりでいた。
そして。
そう、僕は甘かったのだ。
今ようやく、そう認めることが出来る。
「今は、少しだけ恐ろしい。以前の自分の察せなさが。今さら過ぎたことを悔やむだなんて、どうにも甘い感情なのかも知れませんが」
「――ウォッカを飲むのは自由だよ」
老宰相の瞳に、複雑な感情が入り交じる。
その中の慈しみは、本当である気がした。
「だが君は飲み過ぎだ。あるいは、飲み足りていない」
仮に、それがほろ酔いだとして。
僕はいったい、何に酔っているのだろう。
「甘いとまでは言うまい。だが青い、それは事実だ」
「ずいぶんと、親切ですね」
敵対分子への助言ともとれる行為。
事と次第によって、警告では済まされない。
「――ほんの礼だよ。君の力で、ともあれ助かったのは事実なのだから」
確かにそうだ。
でも決して、それだけでは無いはず。
何か確信のようなものを、このとき僕は抱いていた。




