上陸
「……そうか。いや、まだそう思ってるかも知れねえが」
「――いまは後にしよう。来るよ」
目にした一人が、おそらくは村へと去った。
慌ててはいた、だが困惑してはいない。
国境の島だ、連絡が来ていて不思議はない。
その連絡は無論、ロシアのものではない。
一度は去った気配が、程なく増えていく。
やがて僕らは対峙する。
もはや見間違えようのない。
数人ではない、少なくとも十数人。
「14人。村長と若い男たちが、武器になりそうな農具を持って、て所かな――じゃあ、頼むよ」
「ああ、やるか」
言って、僕らは両手を挙げた。
僕は空手で、熊は銃を掲げて。
そのまま、熊は手を離す。
当然、銃はそのまま落下する。
砂と擦れる間抜けな音がした。
右目だけで見るとはなく見る。
鉄の塊は、砂浜に軽くめり込んでいる。
左目では村人たちを見た。
いったい何をしているのかとの困惑。
「――まだ伝わってないね。もう一度、頼むよ」
あくまで両手を挙げたまま、告げた。
熊は銃を拾い上げ、また落とす。
鉄の塊が再び、砂浜にめり込む。
若い男たちは警戒を解かない。
しかし一番の年寄りと二番目は顔を見合わせ、こちらのことを話し合っている。
特に声を潜めるでもない。
むろん、僕には日本語が分かる。
そんなことは夢に思わないのだろう、異人が怪物がと、かなり明け透けな話だ。
もっとも、訛りもあって分かりかねる部分もかなりあるのだけど。
やがて、話がまとまりを見せる。
若い衆を軽く制しながら。
代表と思しき村長と補佐役が、こちらへと歩んで来る。
「通じたみたいだね」
「……だろうな」
熊の口調には、わずかに苦いものが聞き取れた。
海水にまみれた銃は、確かに役に立ったのだ。
本来のその役割とは、また違った形で。




