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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、日本海
324/350

漂着

 相も変わらず、木の舟は揺れていた。

 海の波間、一方向に揺られ運ばれている。

 そして島に近づくにつれ、その揺れが徐々に変わっていく。


 たびたび岩にぶつかり、そのたびに軽く跳ねた。

 海の揺れではない、地響きとでも言うべき感覚。

 ぶつかるのは岩、ついで石。

 何度かよろめき、コツをつかんだ。

 真っ直ぐ立っている必要はない。

 心持ち膝を曲げ、衝撃に備えればいい。

 やがて浅瀬に入った。

 小石が、舟の底を傷つけていく。

 やっと舟は、砂地を抉った。

 沖へと連れ戻そうとする波は、舟をかすかに揺らすにとどまる。

 岸辺への漂着。

 ――こうして、救命ボートは流れ着いた。


 振り向かず、最初の一歩を踏み出す。

 すぐ後ろからは、ほかならぬミドヴェーチが来るだろう。

 かつての銃、いまの鉄塊をたずさえて。


 砂浜を踏みしめ、辺りを見やる。

 僕たちのほかに、流れ着いた舟影は見当たらない。

 おそらくは一番乗りだろう。

 ならば、話は早い。

 今この場で、独断を止める者はいない。


 人知れず、僕は祈りを捧げた。

 誰に? 少なくとも、皇帝ツァーリよりは偉い誰かに。

 通じる必要はない。ただ心の中、祈れば足りた。

 祈りたければ祈るがいい、手が塞がらないならば。

 いやあれは、祈るなとの意味だっただろうか?

 確かめようにも、まだあの本は生まれてなどいない。

 ならば、と僕は思う。

 僕は僕で、好きなように解釈するだけだ。

 ひそかに祈り、かすかに満ち足りた。

 今この場では、それが全てだ。


「おい、皇帝ツァーリ


 背後からの呼びかけが、僕を引き戻した。

 距離的に、僕にしか聞こえなかったはずだ。


「ユーリ」


 一言だけ告げ、付け加える。


「僕の名前ならユーリだ、ユーリ・アリル-エフ。名乗らなかったかな」

「いや、違わねえさ」

「――二度までは聞き流せる」


 口に出したその調子は、決して拒絶ではない。

 その事に、不思議と驚きはなかった。

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