まぎれもない、感情
3時間。
結局のところ、それだけの時間だった。
それが短いなどとは間違っても言わせない。
漂流の末、沖合に見えた島。
かすかな白の島影は、近づくにつれ緑と茶に色づいていく。
その時の感情を、言い尽くせるとは思えない。
あらためて、僕は気づく。
過去と今とは全く違うのだと。
――あと、たった一月だけ無事でいてくれれば。
戦地で夭逝した探偵作家、その存在を知ったときのことを思い出す。
敗戦までのたった一月。それはあくまで、後世からの逆算でしかない。
渦中にある者には、それがあと一月だと知る術などないのだから。
一月。いや、ただの1日だけでいい。
僕ら艦隊の乗組員にとっては、等しくそうだった。
もはや数字などでは言うまい。
ひとりひとり、各々にとって。
そして、ひとりひとりの身内友人にとって、「あと1日」があったのだ。
数字などで、言い表せるとは思えない。
――犬死にだ。
そう思い、打ち消す。
決して、犬死なんかであるものか。
なぜなら、と僕は思う。
馬車に轢かれ死んだ犬は、ともあれ跡形を残すのだから。
ひるがえって、この戦争はどうだ?
海に消えた者たちで、流れ着くのは果たして何人か。
ある者は海の底に沈み、ある者は波間を漂い続ける。
むろん、貴族たちは言うだろう。
彼らは立派に戦った、偉大な存在だとでも。
ならば、と僕は思う。
ならばなぜ、生きているとき大切にしてやらなかった?
いい先住民は死んだ先住民だけだ、そんな皮肉を思い出す。
僕らも変わらない、今そう気づいてしまった。
いい兵士もまた、死んだ兵士だけなのだと。
そう思う内にも、島影は近づいていく。
かすかな土の匂いが、否応なく陸地を意識させる。
狭いボートにも安堵の空気が漂う。
ひとまずの安堵。
けれども。
「……ちくしょう」
かつて抱いたことのない、それは感情だった。
よく知りはしない、けれどもまぎれもない感情。
――敢えて言うなら、この時からだろう。
皇帝たちに。
皇帝どもに僕が、憎しめいたものを抱いたのは。




