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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、日本海
322/350

誓約

「ありがとう。じゃあこのまま、いいかな?」

「……ああ、俺は構わねえが」

「じゃあ、その言葉に甘えるよ」


 近寄り、わずかに背を伸ばした。

 相手がかがみ、右の頬と耳たぶが視界を埋める。

 そうして、僕はささやいた。

 目の前のミトヴェーチに。

 目の前の鉄塊――ずぶ濡れた銃が持つ、その意味・・について。


「――納得、してくれたかな」


 身を離しながら、僕。

 決して疑問形ではない。

 なぜなら、ほとんど確信してのことだから。


「……納得はしねえ」


 そう、納得はしないだろう。

 納得なんて、しないはずの内容だ。

 ――けれども。


「納得はしねえ……だが、だ」

「でも意味・・はある、そう認めてはくれるよね?」


 本来、逆上されればそれで終わりだ。

 けれども、今の熊は違う。

 つい先程、みなの目の前で誓ったのだから。

 離れ離れの、恐らくはもう亡いであろう戦友に。

 生きている者への、それは束縛。

 死者の名を汚すことは出来ない。

 あまりにも厳しい、彼岸からの縛り。

 歯を食いしばった後だ、熊の答えは来た。


「……ああ」


 安堵した、というのが率直なところだった。

 むろん顔には出さない。

 それでも、心拍は落ち着いていく。

 心なしか、息も楽になった気がした。

 吸い込む空気に、潮風の残り香を感じる。


「だが、だ。そいつを行える保証はどこにある?」

「と言うと?」

「……無事に上陸して、俺たちがそうやれる保証が、だ」


 なるほど、と僕は思う。

 確信ならある。

 けれども、根拠ある保証を示せとなると難しい。

 ならば、だ。


「それなら、問題ないね」

「……」

「できないなら、その時はその時だから」


 本国ロシアからの救助は期待できない。

 飛行機もレーダーも、ましてや人工衛星も、まだ存在などしてはいない。

 捜索が間に合うことなど、万に一つもない。


「本国からの助けが間に合うはずもない、これは事実。その状態でなお、相手の領土に流れ着かないならだよ、その時は――」

「……むしろ何も心配はいらねえ、か」


 その通りだ。

 もはや心配する必要はない。

 海の上、死後のことで迷っても仕方ないのだから。

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