密談
「じゃあ今度はこちらも、ひとつだけ良いかな」
疑問形ではある。
表向き、疑問形というだけだ。
たった今。
先にこちらは、相手の質問に答えてみせた。
証人なら、周囲の5人がそうだ。
ならば、今度はこちらの番という事になる。
筋は通る、相手は卑怯でない。
これを逃す手はない。
「何だ? 内密にするって話なら……」
「誓って欲しいんだ」
怪訝な顔。
目的語を伏せたまま、僕は続ける。
「守ることを」
「……それだけじゃ何も言えねえ」
「僕が打ち明ける意味。それに、君も意味を感じたなら――きっちり、行動で示す。そう誓って欲しい」
「……物騒だな」
「誤解だよ」
そう。
暴力でも不意打ちでもない。
内容そのものは、その逆と言っていい。
「物騒じゃない、むしろ平和な内容だからね」
「そいつを誓えるのか?」
「誓う。いま誓うよ――神の名にかけて、ね」
僕以外、全員が黙り込む。
誓い。通例なら無論、皇帝にする所だ。
だが、と僕は思う。
ここでそう誓ったとて、皮肉にしかなるまい。
無謀にも、艦隊ごと世界を一周させられて。
半島の目と鼻の先、惨敗した海戦の後では。
「神の名にかけて――僕、ユーリ・アリルーエフは誓う」
複雑な思いが交差する。
ひとつ、僕は神を信じてはいない。
もうひとつ、彼もまた、今そうかも知れない。
「……なら、いいさ」
「ありがとう。じゃあ、君にも誓って欲しいんだ――君の友人にかけて」
ふたたび、沈黙。
今度のそれは少しだけ長い。
「ふざけて、はいねえよな」
「その逆だよ」
言葉を選び、答える。
「今の君にとっては、別れ別れの友人の方が重い。そう考えたんだ。あとは君に任せる」
「……誓うさ」
相手の顔に、苦さと笑みとが入り交じる。
目配せひとつで、僕は先を促す。
「ミハイル・マカロフは、わが友イワン・ラプシンの名にかけて……誓う」




