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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、日本海
320/350

一握

「……分かった」


 野太い、絞り出すような声。

 酒か潮風か、それとも両方。

 ごく自然な声色、3時間で枯れるはずもない響き。

 これはだから、聞いている僕の問題だ。

 そう察せないほど、気が急いていたのだろう。

 右の手のひらにしわを寄せ、静かに確かめる。

 海のそれとは違う、かすかな塩水の感触。


「――と言うと?」


 何もかも承知の上で、尋ねる。

 念を押すつもりで、尋ねた。


「……認める、と言っている。お前のその、度胸に免じて」

「ありがとう。でも何がどうか、具体的に頼めるかな」


 ふたり、ともに大きく天を仰いだ。

 ミドウェーチは仕草で、僕は心のなかで。

 改めて、相手の色を確かめる。

 怒りも憎しみも、そこに見当たらない。

 もはや意識して見るまでもないのだろう。


「君の考えていることを、言葉で確かめさせて欲しい」

「……いいさ。だがな」


 もう一度、絞り出す声。


「ひとつ、聞かせてくれ」

「何なりと、と言えなくても良いなら」

「構わねえ」


 僕はうなずき、先を促す。


「お前、怖くねえのか」

「――」

「こう言ってよければだ、道理がねえ」

「と言うと?」

「……お前が俺に、腕力では叶う道理が、だ」


 投了と言ってよかった。

 腕力では(・・・・)

 すなわち、それ以外で敗れたとの。

 もう一度、右の手のひらを握る。

 薄く引いた塩水が、徐々に徐々に引いていく感覚。

 もはや、本筋の決着はついたのだ。


「――怖くない、と言うと嘘になるね。ただ」


 恐れはあった。手に汗を握る程度には。

 けれども。


「ただ、どうせ死ぬとしても――ただでは死なないと思ってたから」


 思い浮かべるは、むろん一人。

 仮に僕が死んだとして。

 彼女ならば、何かしら仇をとってくれる事だろう。

 もっとも、どんな形でかまでは分からないけれど。


「最初から捨て身って訳か……」

「当たらずとも遠からじ、かな」


 信頼でも盲信でもいい。

 一種の無感覚という事ならば、そう外れてはいまい。

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