石のような沈黙
その言葉、相手の答えを、僕は待つ。
ただただ、彼が動くのを待った。
なぜなら、と僕は思う。
先に出た側が不利なのだから。
僕と熊、そして残り5人。
小さな舟上で作られた空気に、縛られざるを得ないからだ。
そう察せる僕にしても、決して逃れられる訳ではない。
先に動けば縛られる。
ゆえにその時を、僕はただ待った。
静か。
静かだった。
波の音、木の舟のきしみ、わずかな海風。
互いに立ったまま、相手の次を待つ。
どれくらい経つだろう。
どれくらい待つだろう
僕の鼓動も、平常を取り戻していく。
静かだった。
数多の音たちがありながら、なおも静かだ。
静けさ。
もし静けさを、みずからの感覚が研ぎ澄まされることとするなら。
この時の僕は、限りなくそこに近づいていた。
ミツバチめいたささやきが、耳元に聞こえる。
もはや怒りも軽蔑もない。
変わることへの恐れも。
あるのは渇きだけ。
息絶えそうなほどの渇き。
命の流れよ、どこに進む?
清らかな大気がほしい。
暗き深みには、何が?
何を震え、何を黙る?
感情の色、そのひとつひとつが削ぎ落とされていく感覚。
もし僕が今の僕を見たなら、どんな色に見える事だろう。
もし静けさを、みずからの感覚が研ぎ澄まされることとするなら。
いま僕が感じているのは、まぎれもなく静寂だった。
あるのは空気の振動だけ。
むろん振動は耳を震わせる。
震わせる、ただそれだけだ。
鼓膜の知覚には至らない。
感覚の遮断。
時間の喪失。
石のような、静寂。
やがて。
やがて一人が、口を開く。




