動揺
「……いや、信じられねえな」
言いながら、熊は首を振る。
言葉とは裏腹、感情に青が交じり出す。
おそらくは落ち着きを示す色が。
困惑も混乱も、一辺倒にはもはや見えない。
今ひとつ決めかねているとの、それは兆し。
「いったい何が?」
「……全部が、だ」
その口調も、字面ほど強くはない。
「――じゃあ、先に言おうか」
ダメ押すつもりで、僕。
「先に君の話を聞くとする。もちろん、僕は話を合わせることが出来る。でも大切な友人と別れたばかりの君に、それは――もし下手な作り話であれば――耐えがたいはず。だから、何も知らないに等しい今、僕のほうが先に言ってもいい」
「……この上、まだ切り札がありやがるのか」
「いや、そういう訳じゃないけれど――」
演技ではない。
といって無謀でもない。
そのまま、素直に押すべきとの判断。
その点で、切るべき札は既に切っている。
判断に乗る、そう書かれた札を。
今まさに、このとき切っている。
「――ともあれ、任せるよ」
そう僕は重ねる。
「後でもいい、もちろん先でもいい。主役は君だ」
嘘ではない。
少なくとも今、その片割れなのは確かだ。
どちらが前に出るか、まだ決まってはいないけれど。
「君が決めるといい。僕の方は、それに合わせることにするよ」
そう、どちらだっていい。
本来、二者択一ですらないのだから。
目の前の鉄塊を投げ捨てることも。
はたまた、僕を突き飛ばすことも。
熊の体躯では、造作もないことだ。
後か先か。
その枠に乗った時点で、僕に利はある。
「だから、まずは君の方で決めて欲しい――ただ、中身を二人だけで話す位は、譲ってくれると嬉しいかな」
まず僕が譲った形にする。ならば今度は。
周囲の目があればこそ、それは縛りになる。
小さい人間に見られやしないかとの、そんな縛りだ。




