目覚め
――教えて欲しい。
――君の友人のことを。
――海に沈んだ者のことを。
そう続きを言いかけて、何かが変わったことに気づく。
けれども、何が?
わずかに考え、探し当てる。
指一本。
目の前の彼を取り巻く色が、人差し指ほど違う。
空目、いや疲れ目だろうか。
視界の端で思わず確かめる。
上空、天気はさほどでもない。
視界は開け、夕方にはまだ時間があるにしても、だ。
いかに海上とは言え、目を痛める程ではないはずだった。
彼の周囲、衣服とも海とも違う、紫色が見える程では。
見間違いではない。
おそるおそう、僕は結論を出す。
この色は、錯覚ではあり得ない。
では、見えているこの色は何か?
そのときやっと、僕には見えた。
すなわち、これは相手の感情たる色なのだと。
なにがしか見える者がいる、そう聞いてはいた。
いざ見えたそれが、こうも鮮やかとは。
血圧。
顔色。
身振り。
目に入る情報を統合した末に、脳が見せる幻覚。
理屈としてはそんな所だろう。
空言か、それとも妄想か。
そんな疑問を挟むまでもない。
ただただ純粋に、分かったとの感覚がそこにあった。
――余談に属する話。長く長い後日についての、短い話だ。
打ち明けや戯れの余興で――この時を話してみたことはある。
ウケはとれた。
余興にはなった
でも、それだけだ。
誰も真剣に受け止めてはくれなかった。
それを本当のこととして受け止めてくれたのは。
そして私もそうなのだと、吐露してくれたのは。
結局のところ、ただ一人しかいなかったのだ。
このときの僕が、そう知る由もないのだけど。




