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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、日本海
314/350

意味

「こんな物に、今さら意味があるってのか!?」


 物事に意味などない。それは確かだ。

 サイコロの出目にも新聞の三面記事にも。

 何であれ、意味を見出すことはできる。

 出来ると言うだけだ、実際にある訳ではない。

 生き延びた僕も、生き延びた彼も。

 そして目の前の鉄塊も。

 本当にたまたま、救命ボート上にあると言うだけだ。

 少なくとも、僕はそう思う。


「――あるよ」


 けれども。

 相手にとっては意味がある。

 そんな事もまたあり得る。

 矛盾などない。

 意味など、後から付け足せるのだから。


「意味はあるよ――こんな約立たずにもね」


 不意は突いた。

 ならばその次の一手は。

 僕より話せるとは思えない。

 平時ならこちらが有利のはず。

 いまは少しだけ、相手が落ち着けばいい。


「無論、そのことは説明できる。曖昧にじゃなく、具体的にね」


 決して意味などない。

 けれど、使い道はある。


「――だから、こいつを投げるのは待ってもらえないかな」


 ようやく、真正面から相手の姿を見る。

 大柄な髭面だった。

 視線を合わせれば必然、僕が見上げる形になる。

 顔ひとつ。顔ひとつ分、僕より大きい。

 ミドヴェーチとの単語が思い浮かぶ。

 そこそこが油で汚れ、右袖にはかすかに、赤黒い染み跡があった。

 湿りつつも乾きかけた水兵服は、あの海戦から経た時間を示している。

 長身だった。長身揃いの兵のなかでも、さらに高い。

 適任。そう僕は判断する。


「意味なら、あるから」


 ともあれ、いま海に捨てられるわけには行かない。

 放り投げてもらうのは、また別の時にだ。


「あいつの、……だからか」

「?」

「あいつの、遺した物だからか!」


 瞬間、察しはついた。

 だが知らないものは知らない。

 ゆえに、僕は答える。


「違う」


 ゆえに。

 まずは聞いてみるとしよう。

 聞くこと。

 正面から耳を傾けること。

 ただそれだけが、解になることもある。


「よく知らないんだ、だから」


 ならば、言うべきはひとつ。


「君の話を、聞かせて欲しい」

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