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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、日本海
313/350

漂流

 無論、約立たずに決まっていた。

 引き金はベトつき火薬は湿気る。

 薬莢など敢えて触るまでもない。

 鉄、木、そして塩水。

 それらをひとつに混ぜたなら。

 目の前の鉄塊はただ、当然の帰結でしかない。

 もし不思議があるとすれば、この鉄の残骸が、ちっぽけな木製の救命ボートに乗せられたことだろう。

 何故と言えば、乗せた者がいたからに他ならない。

 結果的に己の代わり、湿る銃を乗せてしまった者が。

 沈没と脱出との間、混乱の産物。

 水濡れた銃一挺がそこにあった。

 約立たずに決まってはいた。

 少なくとも、武器としては。


 1万人いた内の800人、そう僕は記憶している。

 犠牲者ではない、生き残りの方だ。

 艦隊に全員が乗れる救命ボートなどなかった。

 負けを想定していなかったから、などと言えば誇張になる。

 ごく普通の船でさえ、その装備が備わるのはまだ先のことだ。

 世紀の豪華客船が氷山にぶつかるまで、あと7年あるはずだった。


 1905年、5月27日。

 ともあれ兵の命は軽かった。無論、この僕も含めて。

 日本海海戦。

 敗残の様相はつまり、そんなところだ。


 その銃は、船の中央に乗せられていた。

 それを囲むように、僕を入れて7人が座っている。

 静まり返り、口を閉じたまま。

 ほんの3時間前まで、用を成すはずだった物を。


 ――何の役に立つ。

 ――捨てたほうが。


 おそらくは、誰もがそう感じていただろう。

 こんな物が今あってもと、そう感じていた。

 ただ一人、僕を除いては。


「――こんなもの!」


 立ち上がった一人を、僕は止める。

 次の行動は決まっていた。

 体格でも身のこなしでも敵わない。

 ならば先んじるしかない。

 発せられた瞬間に察し、自由の利く腕でさえぎる。


「邪魔する気か!」

「――それ以外の解釈はないね」


 真正面からの肯定。

 不意を突き、わずかに猶予が生まれる。

 ここから。

 あくまでも、本番はここからだ。

 何を言うつもりなののかと、誰しもが思う。

 救命ボートに乗り合わせた残り5人。

 誰もが思い僕らを見ている、ここからが。


「この鉄クズに、今さら意味があるってのか!?」

「うん」

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