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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
312/350

手のひら

 魔女は去り赤子も去り。

 程なく、部屋の扉も閉まり。

 遅れて一人、室内に取り残されたと気づく。

 彼女の気配も赤子の寝息ももはや無い。

 卓上に散らばるトランプに、かろうじての名残があるだけだ。


 座ったまま、僕は両手を見る。

 小刻みに震える手のひらには、薄く汗が見て取れた。

 傾ける毎にきらめくその輝きは、砂金を散りばめた様だ。

 砂金どころではない、僕はほとんど、何も得ていないと言うのに。

 あるのはただ、やっと凌いだとの事実だけ。

 先に仕掛けたのは、僕の方だというのに。


 ――それを失望と言っていいのか、よく分からない。


 けれども、こう考えることは出来た。

 まぎれもなく、彼女は手に入れ損なったのだと。

 何を? 片腕を。

 魔女の片腕に、値するはずの者を。

 そう考えたとして、外れてはいないはずだった。


 今の僕は果たして、見合っているのだろうか。

 彼女のかたわらに立つ者に。

 浮かんだその考えを、僕は打ち消す。

 少なくともそれは、僕の決めることではない。

 彼女の内心は、あくまで彼女のものだ。


 では、僕は。僕のこの身は。

 いま果たして、本当に僕のものなのだろうか。

 答えの出るはずの無い疑問が、この先待ち受けている気がした。

 僕の乗る太平洋艦隊の行き先――やがて戦場となるはずの、初夏の日本海に。


   (上海編・了)

   (ツシマ編に続く)

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