不意
決して責めてはいない。
そうすれば、こちらの不利だからだ。
そこは、突くべきはではない。
なぜなら、突くべきは。
「……申し訳ないよ」
白々しくならない程度に、僕はおどける。
仰々しくも、ふざけ過ぎない様に。
「きちんと13種類なかったの、こちらの不手際だ」
無論、そう一方的な事ではない。
手札を入れ替えたのはお互い様だ。
その結果として、13枚が12種類――すなわち、ジョーカーが2枚になった。
ルール違反は互いのプレイ結果に過ぎない。
だが。
「でも――ルールに反していた時のこと、決めていなかったね」
そう。
無論、僕は勝つ気でいた。
恐らくは彼女もそうだ。
結果として抜け落ちた。
互いが力尽くした結果としての、違反についての取り決めが。
「――でしょ」
「え?」
「あなたは、決して悪いだなんて思っていない」
不意に、彼女は立ち上がる。
そして静かに籠を抱え、きびすを返す。
その後ろ姿に、表情は伺えない。
「それでも、分かったわ」
「何が?」
「あなたが、素直にこちらへ戻りそうに無いこと。今のところは、だけど」
どこかしら滲む悔しさ、かすかな寂しさ。
伝わってくる感情を、気のせいと思いたかった。
そう思いたいだけだ。
これだけの確信は、初めてと言ってよかった。
「私にも出来ないことはある。相手を心からその気にさせるのも、その内のひとつ」
「……僕は」
言葉につかえた僕を、彼女がさえぎる。
有無を言わさぬ、その気配だけで。
「あなたはこの子の事を得た。私はあなたの事を――少しとは言え――得た。お互い、それで十分」
後ろ向きのまま、告げる。
「――それだけで、十分でなくて?」




