機転
「――あなたが、私なら」
言葉を選ぶ気配。
恐らくは考えてくれてるのだろう。
あくまでも真摯に。僕の身になって。
「癖を気づかれたことに、あくまで気づかない振りをする。そうして、3ゲーム目は一度捨てる」
探る気配で、その言葉は続く。
「一度捨てても、4ゲーム目に裏を取ればいい。4ゲーム目まで捨てれば逆に疑われるかも知れない。だから、一度だけ捨てる。最初から癖を見抜くような相手に、最終戦をとればいいとの油断はしない」
「なるほど、そうする手が……」
向けられた真摯には、真摯でもって相対するほかない。
僕は緊張を解いた振りをする。
すべて表向きになるよう、卓上に手札を放り投げた。
そして言葉を選ぶ。
投げやりめきつつ、かつ決定打をとられないように。
「――この通りだよ。僕の手札に、ジョーカーはない」
言葉にはしない。
それでも、弛緩はしたのだろう。
なぜなら、彼女もまた手札を開いたからだ。
卓上へと、表向きに。
同調行動という奴だ。
瞬間、僕はすべての札を見てとる。
場に見えているのは12枚。
A、2、3、4、5、6、9、T、J、Q、K、ジョーカー。
そして後は。
「ひとつ、謝らなければいけないことがあるんだ」
「小細工ならお互い様でしょう」
「うん、その件ならね。でも、そうじゃないんだ。なぜなら」
同時に、僕は伏せ札を表返す。
とがった帽子をかぶり背を丸め、笛を吹く小男。
白黒の絵の、その札は。
「手違いで、12種類しかなかったんだ」
「――!」
まぎれもない、もう一枚のジョーカーだった。
彼女が仕込んだものでない、僕が紛れ込ませた方の。
そう。最終戦の前、ひとつ条件があった。
1・トランプのカード13種類を使う
すなわち。
「ゲームの開始前、そもそも条件を満たせていなかった事になるね……この場合、果たしてどうしようかな?」




