反問
「もちろん、条件が違うのは分かってる」
手癖を始めとした駆け引き、そして隠し札。
ただ一つを除きあらゆる札が開示された今、物分りが良くなるのは道理だ。
それはもちろん、目の前の魔女でも例外ではないはずだ。
「全体の手札はもう、あらかた見えてるからね。だけど、もし君が僕なら――僕の立場で、勝負を挑んでいたなら」
だからこれは、事後の模擬遊戯。
僕自身に由来する、興味本位の質疑。
「君がどう振る舞っていたか、教えて欲しい。癖を読まれ明らかに先を越された、そんな時に」
一方で。
その一方で、決してそれだけではないとも僕は思い始めていた。
すべての局面において、上に立つことはあり得ない。
そしてそれは、何も今だけではないはずだ。
この魔女より上がいるか、それは分からない。
けれども――歯ぎしりする思いの想像だが――僕より上手なら?
恐らくは居ることだろう。
今この地上。18億人の中に、幾人となく存在しているはずだ。
そんな存在と対峙したとき、おめおめ逃げ帰れるとも限らない。
機会。これはそう、機会でもあるのだ。
明白に上の者に教えを請える、またとないはずの機会。
「無理にとは言わない。でも」
「――素直さに免じて」
その前置きは、あくまで静かだった。
淡々と事実を告げる声色だ。
「あなたは、いつも素直」
「……駆け引きの手数じゃ、人後に落ちないつもりだけど」
「素直さそのものは長所。それは覚えておいて。でもあなたは、必要でない場面でもそう――なにも、仕掛けられた駆け引きにつきあう必要はない」
癖を見破られたのであれば、対処せざるを得ない。
対処するなと? いやまさか。
ならば――なるほど、仕掛け返すという考え方がなかったこと。
その欠落こそが、「いつも素直」との評価なのだろう。
必要でないはずの時まで、素直でいてしまうとの。
「癖を見破られた。それは仕方ない。本人が気づかない癖はいくらでもあり得る。でも――見破られたとの察知まで、相手に伝える必要はない」




